偽りのMADE IN JAPAN

ここ数年、製造業の国内回帰が話題になっています。パンデミックにより海外工場の生産コントロールができなくなったことから始まり、長引く円安の影響を受け、消費者も輸入製品を避ける傾向が高まっていると感じます。

また、以下のような理由で日本製を選ぶという消費者も少なくないと思います。

  • 品質の良いものがほしい
  • 地産地消で輸送時のCO2排出量を削減に寄与
  • 国内の産業を守りたい

日本製ってなんとなく安心感がありますしね!私も、この業界に入る前はそう思っていました。そう、業界の闇を知るまでは…。

そこで今回は「日本製の靴」について、殆どの消費者が知らない業界裏話をしようと思います。

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目次

完成寸前まで海外で作っていても日本製

このように書くと、「産地偽装!?」と思われますよね。しかし、製靴業界では常識的な話です。

実はノックダウンという生産方式をとっているもので、殆どの工程を海外で行っていたとしても、底付けを日本で行った靴は日本製表記になるというルールが存在します。

ルールに従って産地表示すると日本製になる為、産地偽装ではありません。しかし、何も知らない一般消費者からすると裏切られた気分ですよね。タイトル通り「偽りのMADE IN JAPAN」と思われることでしょう。

ノックダウン生産方式

ノックダウンは自動車をはじめとする重工業製品で多く採用されている生産方式です。日本で部品を作り、部品の状態で海外へ輸出し、海外で組み立てを行う生産方式として知られていますが、靴はその逆パターンです。海外でアッパー(甲皮)を作って輸入し、国内で底付けを行います。

ノックダウン生産方式のメリット
  • 工賃(人件費)の安い海外で半製品を作ることにより、コストダウン
  • 付属の飾りや資材も、日本で手配するより安い
  • 半製品の輸入は、完成品の輸入より関税が安い
  • 半製品は立体に組み立てる前の状態で嵩が低いため、完成品より輸送費が安い
  • 日本では技術的に作れない複雑な仕様のものが作れる
ノックダウン生産方式のデメリット
  • 設計を精密にしていないと底付がピッタリ上手くいかず、無理やり形にして歪のある製品になる
  • 為替の影響を受けるため、海外生産のコストが想定範囲を超えるリスク

産業の空洞化

日本では靴職人の減少と高齢化が進み、新しいことへの挑戦に消極的な工場が多いのが現状です。一般的に 「日本のモノづくりは凄い」 というイメージがありますが、それは一握りの限られた工場やハンドメイドの職人さんの話であり、残念ながら安価な量販品には当てはまりません。

靴が飛ぶように売れていた時代、コストカットと人的リソース確保のために、日本の工場は次々と拠点を海外へ移し、技術を海外工場へ輸出しました。その結果、日本の製靴産業は廃れ、ものづくりの力は失われました。いわゆる産業の空洞化というやつです。

国内の工賃は高いため、手のかかる工程は海外で行います。国内工場で煩雑なものを作らなくなると、その技術は継承される機会がなく、やがて「作らない」ではなく、「作れない」になってしまいます。そうやって、「日本では簡単なものしか量産できない」という状況に陥りました。

ノックダウン方式を採用するのは、このような歴史的背景もあってのことなのです。

日本製の是非

日本製と表記された靴は、少なくとも底付け~パッケージ梱包は必ず日本で行っていると言えます。これは日本人の感覚を基準として最終検品が行われているということです。

外観品質の厳しい日本

日本の外観検品基準は、世界的に見て異常だと言われるほどに高基準です。海外のマーケットでは箱の破損は問題になりませんし、革に多少の傷や色むらがあっても味として受け入れられますが、日本向けの製品ではNGです。同じ製品でも日本向けに出荷するものは不良判定率が上がるため、日本向けの生産は断る工場もあるのも事実です。

このように厳しい外観検品基準があるため、日本製と表記された(=日本で最終検品を行っている)靴は、海外製よりも外観品質は高い傾向にあります。

ただし、それは「外観」に限った話であり、残念ながら「構造や機能面」においては、同じ価格帯であれば海外製のもののほうが優れていることが少なくありません。

それでもMADE IN JAPANを選びますか?

靴は着用により傷がつくものです。美術品であれば外観の美しさは重要ですが、日用品である靴は構造や機能が重要だと私は思います。こんなことを書くと業界人には嫌われそうですが、正直なところ日本製を推奨する決定的な理由は思いつきません。日本人が日本人向けに企画した、海外生産の靴でも良いと思いませんか?

クオリティの高い完全日本製の靴もたくさんありますが、「MADE IN JAPAN」は、クォリティが高いことの証明ではありません。大切なのはイメージで判断せずに履いてみること。原産国表記に惑わされず、あなたの足に合う靴を選んでほしいと思います。

原産国の表示に関する法律

原産国の表示については、景品表示法で定義されています。一応、エビデンスとして法律のお話をしたいと思いますが、ここから先は小難しい話なので興味のある方のみどうぞ。(笑)

景品表示法とは

景品表示法は正式名「不当景品類及び不当表示防止法」と言い、商品・サービスに関する不当な表示を規制する法律です。一般消費者が安心して合理的な選択をすることができるように定められています。

ニュースとして取り上げられることの多い、優良誤認表示(実際の商品より優れていると誤解を与える表示)や、有利誤認表示(他社製品よりも優れていると誤解を与える表示)も、景品表示法の規定のひとつです。

ルール上の原産国とは

景品表示法第5条第3号の規定に基づく告示 「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号)[PDF: 53KB] の中で、商品の原産国について明示しています。

この「商品の原産国に関する不当な表示」でいう「原産国」とは、その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為(実質的変更行為)が行われた国をいい、個別の商品の実質的変更行為については、「『商品の原産国に関する不当な表示』の原産国の定義に関する運用細則」で規定されています。

消費者庁webサイト:商品の原産国に関する不当な表示

上記のとおり、原産国とは「商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国」となっています。

靴の原産国

靴の「商品の内容について実質的な変更をもたらす行為」は、「商品の原産国に関する不当な表示」の原産国の定義に関する運用細則 [PDF: 81KB] によると、以下のように定義されています。

かわ靴(※):甲皮と底皮を接着、縫製その他の方法により結合すること

「商品の原産国に関する不当な表示」の原産国の定義に関する運用細則 [PDF: 81KB]

つまり、アッパーの裁断・縫製・成型までを海外で行い、日本では本底を接着しただけであっても日本製の表示になります。

※「かわ靴」と記載されていますが、規定された当時は靴と言えば革靴だったのでしょう。現代においては屋外用の履物全般と置き換えて読むことが相応と解釈されています。

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この記事を書いた人

1978年生まれ。工業高専の建築学科を卒業後、大手サッシメーカーに就職。20代は事務職を転々としながら、音楽制作やインターネットラジオの制作運営に明け暮れる。30歳のときにバンタンキャリアスクールで靴作りを学び、靴業界へ転職。現在は神戸市長田区の靴企画会社にて、事務職と企画職を兼務中。

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