2024年3月より「革」「レザー」と呼べる製品は、動物由来のものに限定するとJISで規定されました。(JIS K6541:2024)
こちらの記事は2021年リリースのため、現在は不適切な表現にあたる「フェイクレザー」や「ヴィーガンレザー」などの呼称を使用しております。ご承知おきください。
なお、JISについて詳しくは、一般社団法人日本皮革産業連合会のプレスリリースをご参照ください。
ここ最近、日本のアパレル業界でもサステナビリティを意識する企業が増え、エコフレンドリーな(地球環境に優しい)商品提案が加速していると感じます。
私自身も、仕事上で靴資材や製法について考える機会が増え、サステナビリティについて書かれたNEWSサイトやブログ等を閲覧する中で、「ヴィーガンレザー」という言葉のもてはやされ方について違和感を覚えたので、記事にすることにしました。
ヴィーガンレザーとは
そもそも、ヴィーガンとはどういう意味なのでしょうか。ウィキペディアによると、下記のように定義されています。
ヴィーガン (vegan) という単語は、1944年のイギリスにおいてヴィーガン協会の共同設立者であるドナルド・ワトソンによって造語され、ヴィーガン協会は卵や乳製品の摂取にも反対していた。1951年、ヴィーガン協会は「ヴィーガニズム」の定義を拡大し、「人間は動物を搾取することなく生きるべきだという主義」の意味だとした。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
つまり、動物由来ではないもの全てがヴィーガンと言えます。
レザーとしては、天然皮革(牛革や山羊革など、いわゆる本革と呼ばれるもの)は動物の皮ですから、これらを除いた、人工的に作られた「〇〇レザー」、「▲▲皮革」の総称がヴィーガンレザーということになります。ここでお気づきかと思いますが、実は、かつてフェイクレザーと呼ばれていたものが、ヴィーガンレザーの正体なのです。
ヴィーガンレザーの種類
ヴィーガンレザー(人工的に作られたレザー)は、大きく分類すると2種類あります。
合成皮革
ナイロンやポリエステルなどの生地をベースとし、表面に樹脂コーティングして革風の外観に仕上げたものです。
コーティングに用いる樹脂の種類によりPUレザー(ポリウレタン)やPVCレザー(ポリ塩化ビニル)と表記されることもあります。
人工皮革
超極細繊維(マイクロファイバー)を立体的に絡み合わせていき、革の繊維構造を模して作られたものです。
スムースレザータイプと、スエードタイプがあり、ランドセルで一斉を風靡したクラレの「クラリーノ®」や、東レの「ウルトラスエード®」などが有名です。
繊維原料としては、ポリエステルなどの化繊をはじめ、パイナップル葉、サボテン、近年ではマッシュルームの菌を培養したものなど、様々な原料が用いられています。
ヴィーガンレザーの環境負荷について
いきなり衝撃的なことを書きます。
ヴィーガンレザーが全てサステナブルな素材とは限りません。
何故なら、ヴィーガンレザーという名称は近年登場したもので、現在(2021年2月)の日本では法的な定義や規制値がなく、「人工的に作られた革っぽい素材」と定義した場合、全ての合成皮革や人工皮革がヴィーガンレザーと表記できるためです。
従来の合成皮革や人工皮革は、ポリエステルをはじめとする石油由来の原料を用いているものが多く、エネルギー資源の消費、製造過程における二酸化炭素の排出、染色工程における工業排水の面で、環境負荷の高い素材も未だ数多く流通しています。
ヴィーガンレザーは、アニマルフレンドリー(動物に配慮した製造)として良いイメージを持っていらっしゃる方も多いと思います。また、生産に必要な水やエネルギーの使用量について、天然皮革よりも環境負荷が少ない素材として紹介するWEBサイトも存在するため、サステナブルな素材として認知されつつあるように感じます。
確かにそれらの観点から見ればヴィーガンレザーはサステナブルな素材ですが、まだまだ石油由来のプラスチック製品に分類される素材も多いという点は、声を大にして伝えたい事実です。
ヴィーガンレザーの今後
2020年は日本でもサステナビリティへの取り組みが進み、新素材への関心が集まった年でした。世界的には、天然皮革の不使用を宣言する有名ブランドが数年前から徐々に増加しています。
前述した通り、ヴィーガンレザーは石油由来の物も多いのが現状ですが、植物由来の新たな素材も次々と生まれています。
植物由来のヴィーガンレザー
スタートアップ企業が多く、優れた技術であっても、製品化~流通に苦戦して数年で撤退…という残念なパターンも多々ある分野です。そのような中、2021年2月時点で既に製品が流通している代表的なものをご紹介します。
ピニャテックスは、日本のブランドでも見かけることがありますが、まだまだ一般的ではない素材ですね。有名ブランドや大企業が植物由来のヴィーガンレザーを起用することで、素材の開発が進み、流通量が増えてくることと期待しています。
天然皮革の使用は悪なのか?
天然皮革は動物の皮をなめして作られているため、動物虐待だと訴える動きもあります。確かに、爬虫類をはじめとするエキゾチックレザーは、皮革生産を目的として飼育されているものも多くありますが、牛革や豚革などに関して言えば、畜産の副産物をアップサイクルしています。
食肉を採取した後、皮は必ず残ります。その原皮を有効活用することは果たして悪い行いでしょうか。自然の恵みに感謝し、余すところなくいただくことは、尊いことだと私は思います。
もしも、皮を革として利用しない場合、皮は廃棄処分されることになるかもしれません。廃棄処分こそ倫理に反する行為だと思いますし、処分費用は食肉価格に上乗せされ、食肉の流通価格上昇に繋がります。また、焼却処分するとなればCO2の排出も問題になります。
皮革の製造過程における環境負荷を指摘する声もありますが、近年は皮革産業界も環境負荷軽減が進み、排水の浄化設備の整備や、グリーンエネルギーの利用も積極的になってきました。製造工程における環境負荷や、従業員の雇用状況を評価する第三者機関も存在し、それらの認証ラベルで天然皮革を選ぶことも可能です。
天然皮革は100%生分解可能(土に還る)で、環境負荷に配慮しつつアップサイクルされたサステナブルな素材なのです。
なんちゃってサステナブル商売に注意!
天然皮革もヴィーガンレザーも、考え方によってはサステナブルだと言えるし、そうではないとも言えるということは、ご理解いただけたと思います。サステナビリティに「こうしなければいけない」という正解はなく、大切なのはエンドユーザーが本質を理解して製品を選ぶことだと思います。
「ヴィーガンレザーと謳うことで、サステナブルな製品だと思ってもらえる」
残念ながら、そのような考えの小売店やブランドも多く存在します。ヴィーガンレザーを用いた製品でも、中身は石油由来のヴィーガンレザーで、何も環境配慮されていない製品かもしれません。販売者の勉強不足により、「ヴィーガンレザーだからサステナブルですよ!」と紹介されることもあり得ます。
サステナビリティとは何なのか。それぞれが考え、自身の道徳観に基づいて行動し、製品を選んでもらいたいと思います。決して、聞こえの良い謳い文句に騙されないように。