その革靴、お手入れすれば本当に長持ちするの?

いきなりですが、革靴はお手入れ次第で長年愛用できるものでしょうか。

答えはYESでもあり、NOでもあります。

先日の出来事です。そろそろ足元が寒くなってきたので、パンプスを片付けようと、お手入れしていたところ、↓こんな状態のパンプスを発見しました。

ライニング(靴の内側)の表皮が剥離しています。このパンプスの表地は革ですが、ライニングは合成皮革でした。合成皮革の末路ですね…。悲しいですが、こうなったらお別れするしかありません。

職業柄、素材の特性について知識がありますので、購入するときに、ある程度予想はしていた事態ですが、一般の方には驚愕の事実だと思います。せっかく靴ブログを書いているので、原因と対策を記事として取り上げたいと思います。

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目次

合成皮革は粗悪なの?

答えはNOです。

合成皮革とは、基布(ベースとなる布)の上に、ポリウレタン樹脂でコーティングを施し、見栄えを天然皮革に似せた素材です。

ポリウレタン樹脂と基布の2層構造ですから、製造当初は密着している2層は、経年変化により徐々に剥離していきます。また、屈曲回数が多い部位ほど剥離しやく、これらは合成皮革の構造上、致し方ない部分です。今回のパンプスは、購入から少なくとも4~5年は経過しており、それなりに着用していますから、合成皮革の寿命をまっとうしたと言えます。

もちろん、合成皮革の種類によって剥離強度は異なりますので、中には粗悪な合成皮革も存在するのは確かです。職業柄、合成皮革を製造販売する業者の方ともお付き合いがありますので、

「たった数ヶ月前に製造された合成皮革を用いた、製造されて間もない靴なのに、数回着用しただけで剥離が起きた」

というようなトラブルは、耳にしたことがあります。これは、あくまでその合成皮革の問題であり、全ての合成皮革が粗悪というわけではありません。

合成皮革の長所と短所

合成皮革は、日本では別名「フェイクレザー」と呼ばれる通り、一昔前は、いかにも偽物の革というような、外見が革っぽく見えるだけの、安価な合成皮革が一般的でした。

近年は、化学の進歩により品質が向上しており、フェイクレザーと呼ぶのが躊躇われるものに進化しています。

合成皮革の長所

  • 天然皮革に比べて安価
  • 品質が一定で、色ムラ(※1)や革キズなどがない
  • お手入れが簡単(ササッと拭くだけ!)
  • 軽量
  • 発色が良い(革では鮮やかな色が表現しにくい)
  • 水がしみにくい(※3)
  • 抗菌、制菌、防臭などの新たな機能を持つものもある

※1:生産ロットにより若干の色差は生じます

合成皮革の短所

  • 経年変化により、加水分解(※2)や既出の表皮剥離が起きる
  • 通気性がない(※3)

※2:加水分解とは、合成皮革の表面のポリウレタン樹脂が、水分と化学反応することで、物性が変化しまうことです。年月を経た合成皮革の表面が、ベトベト or ポロポロしてくるのは、空気中の水分や、使用中する人の汗などが原因で加水分解を起こした結果です。

※3:最近は透湿性のある合成皮革も登場している為、短所とも長所とも言い難い性質です。

どうでしょう。こうやって長所と短所を見てみると、合成皮革は、とても良い素材に思えませんか?経年劣化による寿命さえ許容できるのであれば、合成皮革も悪くないと思います。

その革靴、素材は全て革ですか?

合成皮革の長所と短所はご理解いただけたことと思います。一番のリスクは経年劣化による寿命が存在することですね。

現在、革靴として市場に流通しているものの中には、アッパーの表地は革で、裏地=ライニングは合成皮革という製品も多く存在します。冒頭で紹介した私の靴も、そのパターンです。靴の構造上、ライニングは取替ができない部分ですので、ライニング材の寿命=靴の寿命になってしまいます。

近年、合成皮革の寿命は伸びており、高級なものでは10年超えを謳うものもありますが、一般的な合成皮革の寿命は3~5年と言われています。これは、合成皮革が製造されてからの寿命であり、靴になってからの寿命ではありません。

今シーズン新作の靴を購入したところで、資材屋や靴工場で長期保管されていた合成皮革が使用されていれば、その靴は短命の可能性があります。残念ながら、エンドユーザーには資材の生産・流通歴を調べる術がありません…。

長く愛用できる革靴をお求めの場合は、ライニングも革製のものを選びましょう。中敷については、殆どの靴が後から交換可能ですので、ご自身が納得できるのであれば、合成皮革でも良いと思います。

素材の確認方法

それでは、素材はどのように確認できるのでしょうか。インポート靴は、下写真のようなマークで素材表示されていることが多いです。ほとんどの場合、靴底やライニングにシールが貼付されているか、ライニング(ベロ裏や、くるぶしの下辺り)にプリントされています。

ご覧になったことがある方もいらっしゃると思います。EU圏で生産された靴に貼付されているもので、左側は靴の部位、右側は素材を、それぞれシンボルマークで示しています。

靴の部位マークと意味

アッパー(靴底部を除いた、足の甲を覆う部分)表地
裏地(ライニング)&中敷
本底

それぞれの部位の80%以上を占める素材が表示されています。
1種の素材で80%に満たない場合は、2番めに多い素材も併記されます。

素材マークと意味

加工した革(エナメルなどのコーティングを施したり、他の材料と貼り合わせたもの)
布(コットンやナイロンなどの織物または不織布)
上記以外の素材(合成皮革、ゴム、プラスチックもこれに相当)

各素材の分類について詳細は省略しますが、ザッとこんな感じです。

EU圏以外では、下写真のようなものもあります。こちらはメキシコ製の靴で、スペイン語で書かれています。

これらの表示がない場合は、製品に添付されているタグ類を確認する必要がありますが、日本のタグ類については下記の通り表示が不明瞭なものもある為、注意が必要です。

家庭用品品質表示法について

日本では、家庭用品品質表示法という法律があり、この法律に則って製品の素材や品質を示す必要があります。

消費者庁 製品品質表示の手引き
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/zakka/zakka_10.html

上記ページによると、靴の素材表示については、甲皮に合成皮革が使用されている場合の表示規定しかなく、甲皮が表地・裏地の両面を指すのか、表地だけを指すのか、明確に定義されていません。(2018年11月18日現在)

因みに、靴を作る過程で甲皮といえば表裏両面を指すことも多いですが、英語表現でupperだと表面のことを指すことが殆どです。

そのため、例えば甲皮の表地が牛革で、裏地が合成皮革の場合、業者によっては何も表示していなかったり、「甲材(甲皮の種類):牛革」のような表示のみのこともあります。
表示義務のないことは、敢えて表示しないスタンスですね。

正直なところ、最近は合成皮革がかなりリアルになり、パッと見では革との見分けがつきにくくなっています。ライニング材について表示がない場合は、素直に販売店やメーカーに確認することをオススメします。

私の経験では、ライニングが合成皮革の靴なのに、タグを見て勘違いした販売員さんに、ライニングも革だと誤った説明をされたことがあります。老舗の靴屋さんのように、知識と経験豊富な販売員さんもいらっしゃいますが、中には勉強不足が否めない方がいらっしゃるのも現実です。心配でしたら、メーカーのカスタマーサポートに確認するのが確実です。

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この記事を書いた人

1978年生まれ。工業高専の建築学科を卒業後、大手サッシメーカーに就職。20代は事務職を転々としながら、音楽制作やインターネットラジオの制作運営に明け暮れる。30歳のときにバンタンキャリアスクールで靴作りを学び、靴業界へ転職。現在は神戸市長田区の靴企画会社にて、事務職と企画職を兼務中。

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